「垂直の記憶」(山と溪谷社・山野井泰史)

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<感想>
・近年稀に見る名著だと思います。むさぼるように読んでしまいました。

・文章に緊張感があって、大げさすぎず、過小すぎない描写は、十分に彼の記録の凄さを伝えてくれます。

・何度も何度も読み返したくなるような重みのある名言、至言の数々で、それらの一つ一つがこちらのモチベーションを上げてくれ、もっと上を目指さなくてはならない、という上昇思考が生まれてきます。

誰かに強制されたのでもなく、僕自身が、どうしようもなく限界に挑みたくて仕方なかったからだ(81p)』

その時その時、計画のなかで自分の技術と体力が、これから向かう山の難しさを突破できるのかいつも悩み、心から登りたいのか考え、実際の登攀中も山からの危険を読み取り、自分の能力を見つめ、そのなかで最高の決断を下してきたつもりである。僕は、誰よりも登攀中は臆病なほど慎重になるし、どんなに天候が悪くても、どんなに脆い岩が出てこようと、一瞬たりとも諦めようと思ったことがない(140p)』

登山家は、山で死んではいけないような風潮があるが、山で死んでもよい人間もいる。そのうちの一人が、多分、僕だと思う。これは、僕に許された最高の贅沢かもしれない(165p)』

いくら友人がほめてくれても、過去の登攀で心のそこから満足できたと言えるものはほとんどない。(中略)内に秘めたものがどれだけ発揮でき、満足できたかがすべてである(200p)』

・とりわけ素晴らしい(すさまじい)のは、やはりギャチュン・カンの部分ですね。

読んでいるこちらまで恐怖に震える思いがします。

・是非お勧めの一冊です。



なお、山野井通信によると、『今月から来月にかけていくつかの新聞や雑誌に登場する予定です。産経新聞は3月29日から5日間連載されます。4月10日ぐらいには週刊現代で有名なノンフィクションライターの人との対談が出る予定です。』とのことです。

垂直の記憶―岩と雪の7章