「COYOTE」(No.6/スイッチ・パブリッシング)

【bk1】/【amazon】

山野井泰史が「登る人」という文章を書いています。
ギャチュン・カンのリハビリ中にかかれた文章で、それまで積み重ねてきたクライミングの体験を子どもたちに向けて書き下ろしていたものの抜粋、だそうです。


一つ一つは短い11の文章が並んでいます。
その11の文章にそれぞれの連関はありません。
思い出したように、ぽつぽつとエピソードの断片が連なっている感じです。
ヨセミテの話、ヒマラヤの話、フィッツロイの話……。
つながりがなく、説明もないので、唐突に始まって唐突に終わる単文なのですが、それがとてもいい雰囲気を醸し出しています。
具体的に、どこの山での話かとは書かれません。でも、彼のこれまでのクライミングを知っている人は、「ああ、この話は、あの時のことだろう」と想像することができるでしょう。


子ども向けに書いた、と言うだけあって、平易な言葉で、語りかけるように紡ぎ出される文章は、まっすぐに読者の心に入ってくるように感じます。
一つ一つの文章は短いので、すぐに読めてしまいますが、一度読むと、もう一度読み返したくなる、何かそんな魅力を持っています。


ひとつだけ引用しておきます。

『ぼくが登るのは有名になるためでもなくお金持ちになるためでもありません。大自然の中で、ただただ上に向かって登りたかったからです』

今回掲載されたものは、未発表の原稿の抜粋だそうです。
全文を是非読んでみたいと思いました。


ちなみに、今回のCOYOTEは、植村直己特集で、グリーンランドに出発直前の直己と奥さんの会話の載録や、奥さんのロングインタービューもあります。
http://www.coyoteclub.net/