「オンサイト!(1)」(講談社/尾瀬あきら)

【bk1】/【amazon】
オンサイト! 1 (1)
オンサイト! 1 (1)


1993年、東京からから長野県の山間の町、綾部に大村麻耶が引っ越してきたことから物語は始まる。小学校6年生(11歳)の麻耶は、新しい環境にとまどい、また両親の不仲などの問題を抱え、何事にも消極的で引っ込み思案な女の子だった。
しかし、同じクラスの岩本舜と出会ったことで、麻耶は少しずつ変わっていく。そして、あるきっかけからフリークライミングを知り、麻耶の運命はさらに大きく変化を遂げていくのであった。


この第1巻では、そんな麻耶の成長をじっくりと描いている。バックグラウンドには、クラスメイトの朴正美(パクジョンミ)に代表される在日朝鮮人の問題も流れており、そちらの動向も興味深い。
それぞれの登場人物が、各々悩みを抱えており、それらを丁寧に描いているのには好感が持てる。


第1巻の見どころは、第6話に尽きるだろう。
それまで自己流で“崖登り”をやっていた二人が、初めてクライミングスクールに参加し、本格的な“フリークライミング”に触れる、というのがこの回。
運動神経は抜群の舜であったが、強引な力技で壁を登ろうとして、苦戦してしまう。
それを見て、あとから麻耶が登り始めた。最初はこわごわ、という感じであったが、次第にコツがつかめてきた。

腕のかわりに 足の力を 使えばいいと 気づいた
体重を少し 移動するだけで 楽になった
薄い靴底を とおして 足は 岩の形を記憶する
その感覚を信じて 足をふんばる
体が 上へと もち上がる
少しずつ 空へ 向かってゆく…!

舜のところまで、と思いながら登っていたのに、麻耶はいつの間にか舜を追い越し、終了点に着いていた。


そして見開き。
この画が本当に素晴らしい。
初めて完登できたという喜び、解放感、充実感。
一枚の画が、その場の澄み切った空気やさわやかな風まで表現しているように思える。


さらに次のページの4コマがまた良い。
3コマを使って、少しずつアップになる舜の顔。あっけにとられたような、信じられないものを見たような、悔しいような、複雑な表情をしている。
そして、最後のコマで初めて描かれる麻耶の顔。そには涙が浮かんでいた。
麻耶の一言。
「お先に!」
この流れは完璧。しびれる。
何十回でも読み直したくなる名場面だと思う。
読み返すごとに、自分が初めてクライミングの喜びを感じたあの瞬間を思い出し、初心に返り、今すぐにでも壁を登りたい、という気になってくる。


これこそ、新時代を切り拓く、全く新しいクライミングコミックだと思う。
今後の展開にも要注目。
ちなみに、第2巻は、11月下旬発売予定。
現在、週刊モーニングにて隔週連載中。