「山と溪谷2006年3月号」(山と溪谷社)

山と溪谷社
ふだん、このサイトで山岳専門誌の特集については、取り上げていません。新刊情報や講演会情報などの記事を情報として紹介するぐらいでした。
『ROCK&SNOW』なんかに、クライミングの記事が出ているのは当たり前だし、あえてここで取り上げなくても、読む人は読むし、読まない人は読まないと思っているからです。


でも、今回は特別です。
『山と溪谷』3月号の特集「山野井泰史 垂直の記憶」を取り上げさせてください。
これまでの山野井泰史の総決算ともいえる内容で、非常に内容の濃いものになっています。同じ雑誌が、先月、駅弁特集をやっていたとはとても思えません。
『垂直の記憶』『凍』を読んだ人は、副読書として。読んでいない人は、導入として。写真も多いので、入り込みやすいと思います。
『岩と雪』や過去の『山と溪谷』からの再録もあり、こういうのは、最近、山野井泰史を知った人にはありがたいものです。

まさに絶体絶命のピンチ。神様、仏様、ぼくを殺さないでくれ!顔を岩にこすりつけて、錯乱ぎみの自分を取り戻そうと必死になる。(バフィン島「トール西壁」単独登攀 p41より)



ほとんど本人のものによる写真もすばらしいですし、「書かれなかった『垂直の記憶』」も嬉しい限り。

いまの僕には食べ物より水より、1本ルートがほしい。このままでは自分がダメになりそうだ(ガウリシャンカール敗退後 p71より)



ほかにも、お父さんの手記や池田常道との対談など。

それこそ講演してる余裕なんか僕にはありません。あと2、3年しかないんじゃないですかね。(中略)向上するチャンスが残されている時間は、そんなに長くないような気がするんですよ。そうしたら、休んでられないような気がして。(p84より)



山野井通信(1/30)」で本人が書いてますが、「なぜ今なの」という気はします。「まるで亡くなった有名な登山家の遺稿集のよう」というのも確かに。


最近、山野井氏ばかりに注目が集まりすぎている感はあります。このサイトでも、山野井情報に目を光らせていた部分もありますし。
本人が望んで広告塔になったり、スポンサー集めをしているのならともかく、もともとそういうのを嫌って、自分の山を追求していた人ですからね。そう考えると皮肉なものです。


ともかく、これは月刊誌なので、普通の単行本みたいに、ずっと書店に置いてあるわけではありません。『山と溪谷』なんて、と思っている人も、今月に限っては、手に取る価値はあると思います。本人の言葉からしても、今後、表に出るのは控えるようになるかもしれませんし、そうなると、山野井泰史に関する大型特集は、今後しばらく組まれることはないかもしれません。


16歳の女子高生もこの内容なら安心して買えるでしょうか。(参考:2月10日付
それにしても、ここまで専門用語が連発する話で、どれだけの読者がついてこれるのだろうかと心配になったりします。なにせ、先月は駅弁でしたから(しつこい)。


垂直の記憶―岩と雪の7章
垂直の記憶―岩と雪の7章




凍