「魔の山(手塚治虫漫画全集「ボンバ」収録)」(講談社/手塚治虫)

ボンバ!
 1979年
 "漫画の神様"手塚治虫の本格的山岳漫画。
 熟練クライマー間ケンが、パートナー佐佐木小次郎と遭難者の救助に向かう。そこは屈指の難所「多良魔岳」の「牛の舌」。苦労して、命からがら遭難者のもとに辿り着くが・・・。
 さすが手塚大先生である。山なんかまるで知らないだろうに、ここまでの話を描けてしまうのだから、素晴らしい。「あとがき」によると「山男の体験談を聞くだけで」この話を作ってしまったそうだ。山の描写はそれなりに正確だし、山男の心情にもリアリティがある。結末も本当にありそうな話で、胸に来る。30ページのほんの短い物語であるが、きれいにまとまっている。
 何より、純粋に山の話であるのがうれしい。スパイであるとか、ゲリラであるとかを出すことなく、山そのものを描いているのが、とても好印象。
 漫画の神様はやっぱり違うなあと、あらためて思った。その才能には舌を巻く。