「四度目のエベレスト」(小学館文庫/村口徳行)

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四度目のエベレスト


高所カメラマンを職業としてきた著者が見た「エベレストの真実」。


エベレストにノーマルルートから登る、というのは、現在ではよほど特別な付加価値がないかぎり、スポンサーもつかないくらいあふれたものになってしまった。沢木耕太郎の言葉を借りれば、「小学生が夏休みに熱中するスタンプラリーほどの意味しか持たなくなっている」(『百の谷、雪の嶺』より)ものだ。
確かに、シェルパを使った登頂システムができあがり、フィックスロープが張り巡らされた山を、公募登山隊を利用して登ることに、登山史的な意味はもはやないだろう。しかし、だからといって、エベレストの8848mという標高が、酸素量3分の1の「デスゾーン」であることに変わりはない。
著者は、高所カメラマンとして、仕事とプライベートを合わせて、11回エベレストを訪ね、4回の登頂に成功している。


「四度目のエベレスト」というタイトルだけ見ると、著者は単なるピークハンターかと思いがちだが、それははっきり否定している。

登山の商業化が進み、ガイドの後ろについて登れば頂上に立てる安易さがウケている。ピークハンターたちは惜しみなく金を払い、あっちの山こっちの山と登頂数を増やしたがる。これは世界的な傾向だ。当然自ら考えたタクティクスはなく、基本的な冒険性もなく、全行程につきまとうややこしい問題も金の力で一掃してしまう。(中略)
具体的な登山ルートに最初の一歩を踏み出す手前にある、登山のとても重要な部分を、根こそぎ捨ててしまっていいものだろうかと思う。日常生活にある登山意識、イマジネーション、自分自身のタクティクス……そういうものは金で買えるはずもない。

ノーマルルートを酸素を使って登っても、タクティクスを自分で考え、しかもカメラで撮影しながら、ということなら、そこにはまた別の新たな意味が見出せる、と言えるだろう。
本書では、自身の登攀プロセスについてはほとんど語られない。主に、現在のエベレスト周辺事情に多くページが割かれている。シェルパについて、登山隊について、初めて訪れた20数年前との変化など。読み物として充分面白い。


初めてのエベレスト登頂は、「チョモランマの渚」というテレビ番組の撮影の仕事でのこと。イエローバンドで化石を見つける、というのが、番組の趣旨。登頂は目的ではない。そのため、登頂の感想が、

我々はチョモランマ頂上に到達した。……してしまった。

というのだ。これにはちょっと笑ってしまった。もう少し喜べばいいのに。そのあともカメラのバッテリーの心配ばかりしているのだ。


話としても面白いが、この本の魅力は、何よりその豊富な写真にあるだろう。本来、これほどの写真なら、大判の写真集として出すべきものだと思う。しかし、文庫サイズでもその迫力はほとんど損なわれていない。逆に文庫として出版されたことで、価格が抑えられ、多くの人の手に取りやすくなっている、というのはとても大きなポイントだと思う。
美しい氷河やヒマラヤの山並みの写真にも目を奪われるが、最も印象的なのは、ヒラリーステップで順番待ちする登山者の列だ。20人以上がぞろぞろと連なっている様子は、これがとても世界最高所であるとは思いがたい。幻滅を感じざるを得ないが、これこそ現在のエベレストの真の姿なのだと思った。

縁人(日本テレビ系2005年5月1日放送)
日本人エベレスト登頂者一覧


◆関連書籍◆
「チョモランマの渚」

チョモランマの渚―天空の海へ
三浦 洋一(著)
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「高く遠い夢―70歳エベレスト登頂記」
高く遠い夢―70歳エベレスト登頂記
三浦 雄一郎(著)
発送:通常2〜3日以内に発送


「70歳エベレスト登頂」


「テレビがチョモランマに登った」