「山岳遭難の構図 すべての事故には理由がある」(東京新聞出版局/青山千彰)

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山岳遭難の構図―すべての事故には理由がある
データ重視で、山岳遭難事故の原因に迫る、というのはいままでにない新たなアプローチで興味深い。
根本的な問題として、山岳遭難に関するちゃんとした集計データがどこにも存在していないので、著者の苦労が忍ばれる。警察庁のデータも項目が変化していたり、調査項目も少ない。2002年からようやく始まった山岳遭難事故データベースも、山岳保険をベースとしているので、未組織登山者で保険に入っていなかったり、保険申請しなかったケースにおいては集計対象とならない。
そんななかで、少なく解析しづらいデータを判りやすく提示してくれるのは、単純にありがたいことであると思う。ヒューマンエラー、加齢などに焦点を当てているが、もっとも注目しているのが、道迷い遭難。本書の半分くらいが、道迷いの原因と対処に割かれている。「山と溪谷」2月号でも遭難特集がされているが、やはりトップにくるのは道迷い遭難。道迷い実験や声の届く範囲テストはおもしろい。が、PLP法はどうだろうか。事前にPLPチェック表(歩く道筋のチェックポイントを、あらかじめ点・線・面として、概念図化しておく)を作っておけば、確かに現在地は把握できるだろうが、毎回そんな面倒なことはしないと思う。もちろん、現地では、今送電線の下を通った、次は小ピークがあるだろう、コルを越えたら東に曲がる、などの先読みはするが、それは頭の中で行なうもの。いちいち表にしたりはしない。ガイド(ツアー)登山のリーダー向けの話かなあ。
本書には、ほとんど具体的な遭難事例は出てこない。個人的には「ドキュメント○○遭難」のような、事実に基づいた事例、検証のほうが判りやすく、読みやすいのだが、こういった学術的な遭難研究は、もっと続けていって欲しいと思う。そのためには、やはり、きちんとした山岳遭難データをどこかの団体が、集計すべきなのだろうが。
ドキュメント 道迷い遭難



ドキュメント気象遭難


ドキュメント雪崩遭難