「凍れるいのち」(柏艪舎/川嶋康男)

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凍(しば)れるいのち
昭和37年12月、北海道学芸大学函館分校山岳部のパーティー11名は、冬山合宿に大雪山縦走を目指した。しかし、そこから帰還したのはリーダーの野呂幸司ただ1人だった。
45年の沈黙を破り、野呂が語る真実とは。
というノンフィクション。タイトルは、「しばれるいのち」と読みます。


そもそも、この遭難事故を知らなかったので、こんなことがあったんだ、ということでまず驚いた。ちょうど愛知大学山岳部の薬師岳13人遭難と同じ時期だったこともあり、陰に隠れてしまったというのもあるだろうし、これまで、生還者が語ろうとせず、真実がはっきりされなかった、ということもあるのだろう。
前半は、野呂が大学に入る前を書いていて、すこしだるい感じ。が、いよいよ大雪山の合宿、となると、一気に話がもりあがってくる。
吹き付けるブリザード、ひとりひとり倒れていく仲間たち、このあたりの描写には圧倒される。野呂だけが生き残る、という結果を知っていても、みんな死んでしまうのでは、と思えるほどの緊迫感が伝わってくる。
北海道の地理には疎く、山の位置関係がわからないし、昭和37年当時の登山スタイルも実体験として持っていないので、そのあたりのイメージももわかない。それでも、この話には引き込まれた。
ただ、事後の野呂の生き様は不要に思えた。結論として、ビジネス的人生訓でまとめているようだが、そのあたりは、ほとんどおまけにしか思えない。野呂の「いのち」(野呂の人生、背負ってきた10人の人生)をテーマにしたい、45年の沈黙の意味を記したい、というのはわからなくもないのだが、遭難事故を、ど真ん中から書いてしまってもよかったのではないだろうか。遭難部分の描写がリアルで迫力があるだけに、その後とのギャップが大きすぎる。前半は遭難に至るまでの過程としてやむを得ないとしても、後半はもっとまとめてしまってよかったのでは、と思えてしまう。
ともかく、一読の価値はある一冊。