「THE BIG WALL(ビッグ・ウォール)」(文藝春秋/作:横溝邦彦 画:鎌田洋次)

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2000年
 アルパインクライマー山野井泰史が、題材やアドバイスに関わったという作品。山野井自身も「人が山に挑むことの意味がこの作品に隠されているかもしれない。」というある意味微妙なコメントを寄せている。
 大学の美術の先生、千手泰史は3年前のエベレストでパートナーの深田を失った。彼が死んだのは自分のせいではないかと自分を責める千手は、何かに憑かれたように山に向かう。彼をめぐる7つの山の風景の短編集。
 かなり本格的な山漫画。山野井泰史が監修しているだけあって、技術や山の描写はかなり細かい。クライミングシーンも迫真で、ストーリーもバラエティに富んでいる。でも、何かが物足りない。熱くなれない。こちらの気持ちに訴えかけるものが少ない。手に汗握るドキドキ感がないのだ。視点が、一歩引いた感じで描かれているのが原因かもしれない。主人公千住のキャラクターの問題かもしれない。
 最終話「彼方へ」は、結構ゾクゾクした。こっちの方向でもっと長い話がよみたいと思った。