「捜索者」(小学館/谷口ジロー)

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2000年
 1999年5月から11月にビックコミックに連載されていた作品。
 南アルプス甲斐駒ヶ岳の山小屋の主、志賀は、今は亡き山岳パートナー、坂本の一人娘が失踪したことを知る。ダウラギリで死んだ坂本は、志賀に「妻と娘を頼む」というメッセージを残し死んだ。亡き友の約束を守るため、志賀は山を下り、娘を探し渋谷の街を彷徨う。
 ストーリーとしては、街での調査が中心で、山に登るシーンはほとんどない。しかし、典型的な山男として描かれる志賀のキャラクターが生きており、渋谷の若者との対比が面白い。「今時珍しい」「不器用な」志賀の生き方。そして、何としても友との約束を守り、娘を助けようとする一途な想いが熱い。しかし、渋谷での調査はすんなりとは行かない。高層ビル群を前に「今・・・ルートを見失い、巨大な岩壁の下にたったひとり取り残されてしまった時のような焦燥感だけが残った。」と考える志賀の背中は寂しげで印象的である。
 そしてクライマックス。高層ビルをダウラギリに見立てて登攀していくシーンは、谷口ジローの真骨頂といった感じがして、読み応えがある。
 山男を街に降ろして、読者を広げている所にこの作品の意味があると思う。山岳漫画(小説)の新しい方向性も感じる。